佐藤究「テスカトリポカ」感想と評価

2024年5月11日土曜日

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ものすごい分厚い…。

ここでは佐藤究さんの「テスカトリポカ」の感想と評価を。


人間が妙にリアル

小説と言われてるから小説として読んでるけど、登場人物の過去のエピソードから現在に至るまでがリアルすぎる。


このテスカトリポカのあらすじはというと、


古代アステカ文明のいけにえの心臓をえぐり出す儀式とか、マフィアによる臓器売買とか、麻薬とかそういうものがごちゃっと一冊にまとまった本、


という感じ。ごめん、あらすじになってないよな。

でも、いろいろ話がありすぎてあらすじを書くのがめっちゃ難しい本。


でまー、登場人物としても、そのアステカ文明の宗教観を持ったマフィアとか、日本の闇医者とか、ヤクザが管理しているNPO法人の職員とか、メキシコから命からがら日本に来た女とヤクザの間に生まれた大巨漢少年とか、めっちゃ色々出てくる。


例えばNPO法人の職員。

ネタバレになるけれどこのNPO法人を隠れ蓑にして、無国籍児童を保護、その後ひそかに殺してその臓器を高値で売りさばいてるんだけど、この職員はそういったNPOの裏の顔を全く知らない。普通に自分の行いで恵まれない子供たちを救えてる、って仕事にやりがいをもってる。

で、普通この手のキャラの過去エピソードとかって本に書かないと思う。急に小説に登場させるだけにするかなーって。

それをこの佐藤さんはどのキャラに対しても手を抜かず(結果として本があほみたいに分厚くなってしまっている)、過去のエピソード、なぜそういう境遇になったのかを事細かに書いてくる。おかげでどのキャラに対しても実在の人物くらいの解像度に感じるんだと思う。


あとものすごい淡々としてる。

リアルすぎるキャラが淡々と行動していくから、ほんのちょびっと小説っぽくした伝記みたいな感じになってる。


ちゃんと読めばもっと面白いんだろうな…

ものすごい分厚く、またアステカ文明の神々の逸話の話がものすごい長いんで、そういう部分をけっこうふわっと読み飛ばしてしまった。

ちょっともう読むのがしんどくて…。あー、なんとなくアステカの神々ってたくさんいるんだねー、くらいの感じで読んでしまってた。


なのでラストの語り聞かせの部分とか、この物語の終わり方とか、そういうのとアステカ文明の神々の逸話のリンク具合が全くつかめてない。

たぶんちゃんと読んで、神々の逸話をきちんと頭の中に置いたうえで読み切ればもっと面白かったんだろうなー。


なんにしても一人の人間が、ここまでたくさんの知識、たくさんのキャラを、一つの物語にまとめきれるものなんだな、と感心させられまくった。



追記

他の人がどういう風にこのテスカトリポカを感じたのか気になったんで「考察」とかを調べてみた。んじゃ作者の佐藤さんのインタビューが出てきた。

いや、めっちゃプロレスラー。見た目が。佐藤さんの。


でそれを読む限り「ノワール作品」というのを自分で自称してるみたい。「ノワール作品」というのは暴力的でくらーい雰囲気の犯罪を描いた作品の総称。

となると、このテスカトリポカも別にラストの描写の意味とかもそこまでなく、とにかくインパクト重視で書かれた作品なのかなと、インタビューを読んで思う。


うーん、ならもうちょい評価下がるかなー。正直インパクトでいうと中村さんの小説の方が大きいし、それに慣れてると別にインパクトが言うほどない。

で、そのインパクトのほかに何かしらメッセージ性があるのかなと思ってたけど、それは特にないみたいなんで、んじゃ中村さんの本読む方が面白いと思う。

ノワール作品としても、小説としても。


結局暴力描写の先に、どれだけ深みがあるか、っていう事だと思う。佐藤さんの作品は暴力描写に軸を置いていてその先もあるにはあるけど大きくない。ノワールを描くことに力を入れてて、それができてたらその先を考えてない。

中村さんの作品はそもそもノワール作品じゃなくて純文学だから、もっと先の深さの方に軸を置いてる。で、その表層が暴力まみれで疑似ノワール作品見たくなってる。

深みのない暴力作品読むのか、深みのある暴力作品読むのかってことだな。

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