中村文則さんの「カード師」の感想を。
諦めた後の中村さんだなぁ…
中村さんの作品を時系列で読んでるわけじゃないんで、いつ頃の作品からそうなのかわからないけど、とりあえずこのカード師はコロナについても書かれてるんで結構新しめの本だと思う。
んで中村さんの本は、
- 昔の作品:「自分がおかしいのかな?やばいやばい」ってもがいてる感じ
- 今の作品:「すべては無。悩んでいる時期が華」ってもうあきらめてる感じ
なんだよなー。
たぶん本当にここ最近の作品からだと思う。
「その先の道に消える」辺りからなんとなく雰囲気変わりだし、んで「逃亡者」それからこの「カード師」で完全にあきらめた感じになる。
今回のカード師も全体的に、
- 人は無力だよなー。同じこと繰り返すし。結局側だけ変えただけではるか昔からやってること変わんねーじゃん。んじゃ生きてる意味ある?あー面白くない。退屈だねー。
っていうのがひしひしと伝わってくる。
- 主人公:手品師になる夢を捨てる→占いの力がないことを知る→適当に生きる
- 錬金術師:金を錬成したい→できないかもしれないけれどそれはもう自分の人生そのものだから今更否定できない
- 聖職者:魔女狩りなんてあっていいのか、なぜ神はそのお姿をお見せにならないのか→そうして悩んでいる自分自体をどこかナルシスト的に愛している
ていう風に人間は夢でも悩みでも何か考えている自分に酔ってるだけ。というか人生を過ごすには何かに酔わないとやっていられない。みたいな小説。
昔の中村さんならここまで諦観してなかった。
それでもこのひどい世界にひどい自分のままで向き合わないといけない、っていう感じだった。
年取っていろいろ考え方が変わったんだろうなー。
ただ魔女狩りの時の聖職者の部分は「なるほど」と思わされた。
神の不存在に対して、考えていくとそういう考えになるのかーと。
神がなぜ奇跡を起こされないのか、と悩んでいることが楽しくなっている。自らをその考えの中に押し込め、攻めるS性と、その中にM性がまじりあってナルシスト性をはらみ、気持ちよくなっている。
結局、彼女にフラれたノンスタ井上が雨の中、傘もささずに外に飛び出し、道路に一人ぽつんと、そして上を見上げ続ける。っていうシーンの絵面を自分を俯瞰で見て「今、俺、いけてるぅ~!」って思うのと神の不存在に悩む教徒の心境は同じじゃん、みたいな。
そういう感じのことが書かれてて、宗教も煮詰めるとここまで赤裸々になるんだなーって。
宗教観に関しても最近の作品は回を追うごとに、中村さんの中で変わっていっているみたいで、うえで書いた「その先の道に消える」→「逃亡者」→「カード師」でその着地点が変わってるのも面白い。
次の作品だともっと発展した宗教観を読めそうで楽しみだなー。
ただまー、全体で言うとそこまで面白い本じゃないと思う。中村さんが好きなら読んで間違いない本だけど、中村さんが別に好きじゃない人が読むと「なにこれ…」ってなると思う。
逃亡者の頃からそうだけど、話があっちこっちに飛ぶから気になる人は気になるはず。それも含めて中村さんの良さだと俺は思うけど。あと「~とは言わなかった」構文ね。
逃亡者の「~とは言わなかった」構文の応酬はマジでめっちゃよかった。ずーっとにやにやしながら読んでしまった。
純文学とかあんまりそういうくくりで本を読んでない(暇つぶしとして本を読んでるだけ)んであれだけど、中村さん自身がその枷にとらわれていないといいなー。重圧というか。
初期の頃の作品の何も、そういったしがらみを考えていない無鉄砲さが、やっぱり一番中村さんの魅力だと思うんだよなー。
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