中村文則「逃亡者」感想

2024年4月26日金曜日

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中村文則さんの「逃亡者」めっちゃよかった!

なんか女子がおしゃれパスタ屋いった後のインスタみたいなうっすい感想になったけど、でもめっちゃよかった。

ここでは中村文則さんの「逃亡者」の感想を。


アインが可愛すぎる本

この感想自体たぶん本をたしなんでいる読書上級者の方からすると「いやそこじゃねーだろ」って感じだろうけど、僕としてはとにかくこの逃亡者に出てくる登場人物、アインが可愛すぎて、そして悲しすぎて、実際泣いてしまった。

本で泣くってたぶん学生の時に読んだ流星ワゴン以来だと思う。


しかも電車の中で泣いてるから、周りの人怖かったろうな…。急に神妙な様子でずーっと本読んでたおっさんが泣き出すんだから。

泣くっていってもさすがに外だったんで頬を伝う的なのはなかった、というかこらえたけど、目が謎に水分増してんなこのおっさん、くらいには泣いてた。


そう、ネタバレになるからあれだけど、アインっていう女の子(といっても26歳)がこの小説の中で死んじゃう。死んでしまったときは喪失感ものすごかったけど、別に泣きはしなかった。放心状態で一日そこでこの本を読むのを止めてしまったくらい。

それ以上文章を読めなかった。辛すぎて。


実際はアインが死んだ後の、本当はポケモンが好きだった、セーラームーンも好きだった、っていう部分で「ああ…」ってもう読めなくなった。禁酒してたのにショックすぎて酒飲んでしまった。


アインはヴェトナムで育った女性で、日本が好きで、日本の大学に行きたくて、ヴェトナムで出会ったジャーナリストである主人公のことがちょっと好きで、で頑張って日本来て。

大学には受かってないから主人公が非常勤講師を務める大学の講義をモグリで受講して、とっても笑顔で。

でも実は騙されて悪徳な日本語学校のビザで日本に来てて、そのせいで借金がすごくて、キャバクラで働かざるを得なくなって、それを主人公に見られて泣いちゃって。

主人公とヴェトナムで最初あったときに、日本が好きと伝えたら、ポケモンとか?と言われ「小説です!」ってちょっとむってして答えたのに本当はポケモンも大好きで。主人公に子供と思われたくなくてついた嘘で。

小説家になりたくて。頑張ってて。


主人公に結婚しようっていわれて。


……



でも、死んでしまう。とてもあっけなく。


ものすごい生々しくキャラが描かれてるから本当に実在の人物がなくなってしまった時くらいの喪失感を食らった。たぶん過去に僕自身が彼女と別れたとかそういうんよりマジで喪失感でかかった。


この小説では人間は誰しも頑張ってる人が報われてほしい、という願望がある、っていうのが書かれてるけど、それこそアインが死んでしまった悲劇がその思想のアンチとなっていて、でもそれだけのためにアインを殺したのか、と作者を恨みたくなるくらい。


で。

泣いてしまったのは、この逃亡者ラスト付近で主人公がアインの日記を手にするところ。

本当は日記ではなく小説家になるための資料というものだったんだけど、開いてみると中には主人公に対する思いがつづられていて…。

もうだめ。泣いちゃう。こんなの。


……



ごめん、気持ち悪いよな。たかが小説のキャラの死にここまでダメージ食らったりするのって。あと、同じような「ああ…」って気分になる小説でいうと島田荘司さんの「ロシア幽霊軍艦事件」がいい感じなんで、アインが好きならこっちもおすすめ。


ここからは逃亡者のテーマというかそういうのを一応考察したい。


この本はかなり分厚く、話もあちこちに飛びまくり、登場人物も過去から現代にいたるまでものすごいいろいろな人が登場する。


でも全体として言いたいのは3つだと思ってて、


  • 何か一つの考えに染まっていくことは非常に危険。過去の戦争の歴史、与野党のパワーバランスの崩壊、今世界はそういう危険水域に来てるのではないのか
  • 大きな抗えない力で起こってしまった戦争や虐殺、そしてキリシタン弾圧。あとから歴史をなぞればそれは大きなものとしてしかわからないけれど、その時代を生きた人はどの立場であれいろいろな人が、いろいろな思いをもって精一杯生き抜いていたということ。いいことも悪いことも双方あった。にもかかわらずゼロかイチで正義と悪が語られる歴史感に対しての危惧
  • 人々にとって心地いい物語、音楽、情報、そういったものばかりになってしまったとき、それはどれだけ危険な世の中になるのか


こういう感じ。

結局全体のテーマとしてみるとこの逃亡者は、今世界が直面している、自らが心地いいと感じる情報ばかり仕入れる(youtube、twitterなど。言い換えると、テレビしかメディアがなかった時に比べユーザー個々が自分に都合のいい情報だけ読むようになってきてる)状況を危惧してるんだと思う。

その先に待つのはとっても生きにくい世の中なのでは?っという。


この本の中で「君の名は。」についても題名を伏せて書かれている。

その内容としては、東日本大震災を経て国民が無意識に感じていた「災害がなければ…」という思いを、大災害を過去に戻って防ぐ、という内容は癒した。というもの。

こんな風に人は無意識に自分たちにとって聞こえのいい物語を欲している。っていう。で、それを突き詰めていくと戦争のような扇動に発展しかねないという。


例えばヘイトスピーチとか、特定民族に対する嫌悪感とか。ネトウヨっていうのかな。まあそういうの。


どうなんだろう。

新海誠監督嫌いなんで別に中村さんの意見にイエスって言ってもいいんだけど、それはもう陰謀論の域に入ると思う。


ただ確かにいろいろな情報を個々人でちゃんと精査しないといけない時代になってくるんだとは思う。

逆に言うと自分のお気に入りのメディアだけ読んだり触れたりするんじゃなくて、見たくなくても反対意見の記事なり動画なりにもちゃんと目を通し、自分で考えることが大事になってくる時代だと思う。


でもだからこそインフルエンサーとか著名人の意見がより影響力が出てくるわけで。難しいよなー。


そういう時代に対しての警鐘を鳴らしてるのがこの逃亡者だと思う。


ただそんなテーマとかどうでもよくて、俺はアインがただただ好き。悪い、崇高なテーマのありそうなこの小説でそんなしょうもない感想が第一で。

でも何かを好きになるのってテーマがどうのじゃなくて、それが好きだからその裏を知りたくていろいろ調べるものだと思う。

好きなアニメや漫画の裏設定ってめちゃ調べるでしょ。あれ。

エヴァンゲリオンの最後の映画とかおもんなさ過ぎて、たぶんいろんなシーンで裏設定?聖書がらみのなんかそういうのあったんだと思うけどそんなの興味なくなるからなー。

結局、まずはなにかしら興味を持つのが大事なわけで。興味があるからその先を自分でのぞきたくなる。それが大事だと思う。それがもしかすると中村さんがこの小説で伝えたかったことなのかもなー。メディアの取捨選択が過度になってきてるけれど、何かしら興味を持たせる方法があれば、人は、世界はまだいい方向に向かっていける、みたいな。

興味を持つことで表層をなぞった、そして著名人が言った、ゼロか1じゃなく、自分で自分だけの考えを持てるようになる、って。

…考えすぎか。


また、そういう意味では今回中村さんの描くアインにここまで心を動かされてしまって、結果逃亡者という作品そのものをものすごい評価してるので、まんまとやられてしまった形。


…この小説はずーっと保管しておこう。

また数年後、僕が生きていれば読み直して、そうしてアインに出会いたい。

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